昨今ではファクタリングを巡って多数の裁判が起こっています。
それぞれがどういったケースでなぜファクタリング業者が勝ったのか、あるいは負けたのか理由を知っておくと、より安全にファクタリングを利用できるようになります。
ただ「裁判例なんて、どうやって調べたらよいかわからない」方がほとんどでしょう。
今回はファクタリングの裁判例や事例の調べ方や注意点について、実際の事例もふまえてご紹介します。
- ファクタリングの裁判例、事例の種類やパターン
- ファクタリングの裁判例、事例の調べ方
- ファクタリングの裁判例の見方
ファクタリングの裁判例、事例の種類やパターン
「ファクタリングの裁判例」といっても、いろいろなパターンがあります。
よくあるパターンや種類を理解していると裁判例を探しやすくなるので、まずはファクタリング裁判を分類する視点を持つと良いでしょう。
給与ファクタリングと事業者ファクタリング
ファクタリングには「給与ファクタリング」と「事業者ファクタリング」があります。
給与ファクタリング
給与ファクタリングは、会社員などの給与債権を譲渡するファクタリングです。
原則違法と考えられており、実際に給与ファクタリングを違法と判断した裁判例も存在します。金融庁からも注意喚起の呼びかけが行われていますし、業者が摘発された事例もあります。
事業者ファクタリング
事業者ファクタリングは中小企業や個人事業者の資金調達のためのファクタリングで、売掛金を債権譲渡するものです。こちらは原則適法と考えられており、ファクタリング業者側が勝訴した裁判例もたくさんあります。
ファクタリング側が勝訴した事例と敗訴した事例
ファクタリングの裁判例にはファクタリング側が勝訴したものと敗訴したものに分類できます。
裁判例をみるときには、結果だけではなく「なぜファクタリング側が勝ったのか」あるいは「なぜ負けたのか」理由を意識する必要があります。裁判所の判断理由を理解できていれば、今後問題となるような行動をとらずに済むからです。適法と判断される行動をしていれば、万一訴えられてトラブルに巻き込まれても、裁判に勝てる可能性が高くなって身を守れます。
ファクタリング会社が訴えた事例と訴えられた事例
ファクタリングの裁判例には、ファクタリング会社が原告となって訴えたものと、訴えられて被告となったものがあります。
ファクタリング会社が訴えるパターン
ファクタリング会社が原告となるのは、利用会社が約束通りにファクタリング会社へ回収した売掛金を入金しないため、回収のために訴えるパターンです。
利用会社の資金繰りが悪化して使い込んでしまうケース、利用会社が「実質的には貸金契約だから契約は無効であり、これ以上回収資金を支払う義務はない」などと主張して回収金の支払いを拒否するケースが多数です。
ファクタリング会社が訴えられるパターン
ファクタリング会社が訴えられて被告となるパターンの多くは、利用会社が「ファクタリング契約は実質的に貸金契約なので利息制限法が適用される」と主張するものです。
事業者ファクタリングは基本的に「債権譲渡契約」ですが、稀に「貸金契約」と認定されるケースがあります。また弁護士の中にも利用会社に対し「ファクタリングは実質的に貸金契約だから利息制限法が適用される。払いすぎた手数料を取り戻せる」とアドバイスする方がいます。
そこで利用会社が「ファクタリング契約は実際には貸金契約だった」と主張してファクタリング会社に対し、利息制限法を超過して払いすぎた手数料の返還を求めるのです。
このタイプの事例では、ファクタリング会社が勝訴したものも敗訴したものもあります。
ファクタリングの裁判例・事例の調べ方
実際にファクタリングの裁判例や事例を知りたいときにはどうすればよいのか、5つの方法をご紹介します。
判例検索ソフトを利用する
1つ目は、専用の判例検索ソフトを利用する方法です。
有料ですが、検索の使い勝手が非常によく多数の判例が集められています。
弁護士や裁判官も利用しており、もっとも信頼できる検索方法といえます。
ただし判例検索ソフトを導入すると、月額の費用負担が発生します。日常的に判例検索をする方はぜひ導入するとよいでしょう。
代表的な判例検索ソフトは以下の3つです。
どのサービスも大差はないので、好みや費用で選択してみてください。
最近では、スマホでも判例検索ができるアプリも配布されています。
さきほどご紹介したウェストローでもアプリ版がありますし、上記以外の簡易なサービスもあります。アプリ専用の判例検索サービスはPC用のものほどは充実していないと考えられますが、手軽に利用できるメリットがあります。裁判例検索をしたい方はインストールしてみましょう。
裁判所や弁護士会の裁判所検索を利用する
無料で判例検索したい場合には、裁判所の「裁判例検索」を利用してみましょう。
裁判所のサイトには多数の裁判例が掲載されており、検索して調べられるようになっています。
たとえば「ファクタリング」というワードを入れるとファクタリング関連の裁判例がいくつも出てくる仕組みです。「裁判年月日」「事件番号」「裁判所名」などの検索条件も指定できるので、特定の事件を調べたいときにも役立ちます。
検索結果から紹介するファクタリングの裁判例
たとえばこちらのサイトで検索して出てくる大阪地裁の裁判例をご紹介します。
この事例は利用会社がファクタリング会社へ不当利得返還請求したものですが、ファクタリング取引が「実質的には金銭消費貸借」と判断されました。利息制限法の制限利率で引直し計算をすると、手数料に過払い金が生じているとして、利用企業側の不当利得返還請求が認められています(大阪地方裁判所平成29年3月3日)。
ただし裁判所の検索システムにはすべての裁判例が掲載されているわけではありません。また検索の使い勝手があまりよいとはいえず、狙った裁判例を見つけられない可能性もあります。また結果はすべて「PDF」の原文で表示され、解説はついていません。
裁判所の文章を読み慣れていない方は「わかりにくい」と感じる可能性があります。
弁護士会の判例検索システム
地方によっては弁護士会が裁判例検索サービスを提供している場合もあります。たとえば兵庫県弁護士会は消費者問題に関して判例検索システムを提供しています。今後給与ファクタリングの裁判などが起これば、消費者問題の1つとして掲載される可能性があり、他の弁護士会でも同様のサービスを開始する可能性もあります。
弁護士事務所のサイトを確認する
ファクタリングの裁判例を調べたいときには「弁護士事務所のサイト」も役立ちます。
弁護士は数々のコラムを書いており、ファクタリング裁判を取り上げているケースも多いからです。
弁護士サイトでは弁護士による見解や解説が載せられているので、裁判例をそのまま自分で読むよりずいぶんわかりやすくなります。
具体例1
こちらのページでは、弁護士が「給与ファクタリングが貸付と判断された裁判例」を解説しています。
裁判例の内容は給与ファクタリングの違法性が問われたもので、裁判所は「給与ファクタリングは基本的に違法となる」といった判断をしました。
具体例2
こちらの事務所でも、弁護士がファクタリングに関する注目すべき3つの裁判例を紹介しています。
事業者ファクタリングの適法性が問われた裁判例があり、ファクタリング会社が敗訴したものだけではなく勝訴した事例も掲載されています。
弁護士による解説や判例の見方なども書かれていて、わかりやすくまとまっています。
「ファクタリング 裁判例」などで検索してみると弁護士事務所の解説サイトがいくつか出てくるので、関心のあるものをみてみるとよいでしょう。
方法4 新聞社のニュースを確認する
ファクタリングの事例を見つける方法として「新聞社のニュース」も役立ちます。
朝日新聞、産経新聞、読売新聞、日経新聞など、各社が自社のニュースサイトでさまざまなトピックを掲載しており、注目すべき判決が出たら裁判の速報を流しているのです。
紙の新聞と異なり、ウェブ上のニュースは数年経っても残っているケースが多く、後からでも検索によって調べやすい特徴があります。
たとえば産経新聞社では、「給与ファクタリングが貸金契約と認定され、高額な手数料が違法と判断された事例」を速報で流しています(東京地方裁判所令和2年2月9日)。
すべての裁判例は探せませんが、世間の注目を集めるような事例はいち早く把握できる可能性があるので、ニュースサイトもチェックするとよいでしょう。
一般のサイトを確認する
公的機関、法律関係やニュース以外の一般サイトはすべてを信用できるわけではありませんが、中には正確な判例情報を掲載しているものがあります。
個人運営の判例検索サイト
たとえばこちらの「判例検索β」は個人が運営しているサイトですが、いろいろな裁判例が掲載されています。
「ファクタリング」というワードでも検索ができて、PDFではなくテキストベースで結果が表示されるので便利です。請求が認容されたか棄却されたかもわかるようになっています。
こちらのサイトを検索して出てきた裁判例を1つご紹介すると、ファクタリングの利用会社が「ファクタリングは貸金契約なので、利息制限法を超過した手数料」の返還を求めたものがあります(大阪地方裁判所平成29年3月3日)。
結果としては利用会社の主張が認められて過払い金の返還が命じられました。
一般業者が運営しているファクタリング裁判紹介サイト
こちらは民間業者が運営しているサイトで、多数のファクタリングに関する裁判例が集められています。
裁判の概要と見解が詳しく掲載されており、法律知識のない方にもわかりやすく説明されています。一覧から関心のある裁判例を選んで内容を見られるので便利です。
ただし裁判の原文は掲示されていないので、原文にあたりたい場合には裁判所のサイトなどで事件番号を打ち込んで参照する必要があります。
ファクタリングの裁判例を調べるときの注意点
ファクタリングの裁判例を調べるときには、以下のような点に注意しましょう。
なるべく公的な情報を参照する
裁判例を掲載しているサイトは今回ご紹介した以外にも多数あります。
法律関係ではない一般のネット会社や個人が運営しているサイトでも、ファクタリングの裁判例が引用されているものがみられます。
しかし、あまり一次情報から外れたサイトの情報を鵜呑みにしてはいけません。記事を書いたライターやサイト運営者が法律を理解していないケースも多く、間違った解説をしているケースも多いからです。一次情報から外れると、転載が繰り返されて内容が不正確になっている可能性も高まります。
なるべく「裁判所が出している情報」や「判例検索ソフトが出している情報」を探しましょう。裁判の「原文」がついていればほぼ間違いはありません。
また産経新聞や朝日新聞、日経新聞などの新聞社のニュースサイト、弁護士事務所の出している情報などはエビデンスがしっかりしており、信用できると考えられます。
原文は信用できるがわかりにくい
裁判所の検索システムを使うとPDFで裁判例の全文が表示されます。情報の正確性としては申し分ありませんが、原文そのままでは素人の方には非常にわかりにくいでしょう。
判例を読める方であれば問題ありませんが、できれば何らかの解説がついているサイトがおすすめです。
「裁判所名と裁判年月日」に注目する
サイトに掲載されている裁判例が正確なものかどうか判断する指標として「裁判所名」と「裁判年月日」があります。
裁判所名とは「東京地方裁判所」「東京高等裁判所」などの裁判所の名称です。裁判年月日とは「令和3年10月4日」などの裁判が行われた日付です。
弁護士などの法律の専門家は、裁判所名と裁判年月日によって裁判例を特定しています。裁判所名と裁判年月日がわかれば、裁判所の判例検索システムに入力して原文をあたることも可能です。
きちんとした情報であれば裁判所名と裁判年月日の記載が行われているはずですから、一般サイトで裁判例を検索するときにもそれらの情報が掲載されているか確認しましょう。